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札幌西高校 美術部 3年 小貫 幸乃さん
2月2日から4日にかけて札幌市民ギャラリーで開催された「2024第14回道展U21」で優秀賞、10月9日から10日にかけて旭川大雪アリーナで開催された「第58回 全道高等学校美術展・研究大会」で全道優秀賞を受賞した札幌西高校美術部の小貫幸乃さんに話を伺いました。
父親が絵を描くのが趣味で、母親が保育士だったため、絵を描くための参考本や画用紙がある環境で育ちました。1歳半頃から絵を描き始め、小学校の図工の授業や自由研究などの制作が好きで、絵をたくさん描いていたのを覚えています。自由帳には、友達やキャラクター、ぬいぐるみの絵などを描いていました。中学では運動部に所属していましたが、けがをしたのをきっかけに引退。高校では自分の絵がどこまで上達するのか、また、大きなキャンバスに絵を描きたいという想いで美術部に所属し、本格的に指導を受け始めました。
初めて絵を描いた時の様子
その時に描いた絵
人間の表情の機微、つまり、細かい違いを描きたかったので、高校で描いた作品は全部人物画です。人物画の魅力は、描く時も見る時も感情が一番乗りやすい題材で、風景画よりも直に感情を理解できることだと思っています。ただ、自分が伝えたい感情を見ている人に正しく伝わるかが難しくもあり、面白いところでもあります。また、人間の顔のように見慣れているものを描く時に、位置が少しずれるだけで違和感を感じてしまうので、注意して描いています。
油絵は一度間違えても重ね塗りをすれば何度でも塗り直せるので、失敗を恐れずに細部まで描き込むことができます。さらに、平面だけではなく、立体に盛ったり、絵の具に砂を混ぜてボコボコにしたりすることができるので、表現の幅が広くて楽しいです。
背景は筆ではなく、ペンチングナイフというバターを塗るナイフのようなもので、立体に浮き出るように塗っています。また、一回作った後に全体の調子を整え、目立つ部分が出ないように油絵具を薄く油で溶かしたものを塗り、ピンクみにしたり、青みにしたりするグレージングを行っています。クレージングをすると、絵の印象が大きく変わるので、少しずつ、部分毎に繰り返して整えています。
色使いは平成レトロ、1990年代ぐらいのポップなイラストが好きなので、それを参考にしています。
趣味でデジタルでのイラストも描いていて、学校祭のうちわのデザインに採用されたことがあります。
題材は、大会の2、3ヶ月前ぐらいから何にしようかを考えながら過ごし、思いついたものをいくつかストックします。そして、その中から特に気に入ったものを小さな用紙に描いてみて、一番しっくりきたものをそのまま作品にしています。思いつかなくて迷う期間が長く、かなり焦ります。
題材が決まると、1、2ヶ月くらいで描きます。油絵は厚く塗った部分はなかなか乾かず、1週間程度かかるので、早く乾かしたい時は専用のオイルを混ぜることもあります。ただ、乾くまでは手直しできるのは気が楽です。部室でつなぎを着て作業をしていますが、大会が近くなると家に持ち帰り、居間でブルーシートを敷いて作業を行うこともあります。
初めて大きな賞を獲得したのは、「2024第14回道展U21」での優秀賞でした。それまでは石狩支部での佳作が最高の成績です。佳作だった作品に納得がいかず、改善点を見つけて作品をブラッシュアップしました。主な改善点は、今までの作品が全体に統一感を欠いていたことです。人物やカーテン、ひまわり、空など、異なるものを一つの絵にまとめようとしていましたが、それがうまくいかず自分に合わないと感じました。そこで、しっかりとした資料があり、詳細に描ける自画像を選ぶことにしました。そして、どのような自画像を描くか、いろいろなアイデアを考えた結果、今の自分が昔の自分を描くことで二つの時代の自分が重なることを表現することにしました。
この作品は、私が幼い頃の写真を参考に描いています。題名のoriginが「起源」という意味なので、自分が絵を描く起源、元になっているものを、改めて描いてみたいと思って描きました。そして、落書きは昔描いた自由帳などの写真を撮り、真似して描いてます。さらに、昔の自分の落書きが今の自分が描いた絵の上に重なるようにすることで、現在と過去の自分を一つの絵で表現しています。背景は、夢の中や昔の記憶を思い起こさせるよう、ふわっと融け込むように描きました。
枠は、四角い枠ががなかったので、木を切って塗装して釘で留めて自作しています。U21の大会が高文連より自由度が高く、キャンバスのサイズや題材の規定があまりないので、比較的自由に作ることができました。
佳作以上の賞を獲得したことで、自分がしたことが評価されたと感じ、自信となって全道大会につながったと思います。
2024第14回道展U21で優秀賞 「origin」
「第58回 全道高等学校美術展・研究大会」に出展した作品の題名は「渇求」です。これは、何かに対する強い願望や期待するといった意味に加え、満たされていない状態を伴う気持ちも含まれています。この題名を選んだのは、将来への希望やわずかな焦りを表現するためです。自画像を選んだのは、高校最後の作品だったので、18歳の今の気持ちを自画像に留めておきたかったからです。作品のこだわりとして、白い服は多くの色を映すことができるので、光の反射などで様々な色に見える現象を強調して描いています。また、細部もきちんと描くため、髪の毛の部分にネイルアートの筆を使ったほか、服のシワの部分も立体を意識しながら描き上げました。また、光と陰を効果的に表現することを特に意識しました。
今まで作ってきた作品は最後に急いで描いたり、もう少しできたなと思うところが残っていましたが、今回の作品はしっかり時間をかけて納得いくところまで完成できたので、今までの中で一番納得のいくもので、その成果として受賞できたことはとても嬉しく、自信につながりました。
また、大会の参加者には感想を書くカードが何枚か配られていて、気に入った絵に感想を書いて絵の横の封筒に入れるやりとりがあるのですが、この作品に対してたくさんの感想をもらうことができたので嬉しかったです。
第58回 全道高等学校美術展・研究大会で全道優秀賞「渇求」
高校卒業後は、デザイン系の大学に進みたいと思っています。そこで、今まで挑戦したことがなかった立体など、様々な技術を学んで表現できる幅を増やすことと、自分が好きなことを仕事にしたいので、仕事として通用する技術を身につけたいです。
また、道展U21では、あと一歩のところで上の賞に届かず悔しい思いをしたので、大学でも絵を描き続けて賞を取りたいです。